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新潟地方裁判所 昭和46年(ワ)316号 判決

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告野井正に対し金五九万二三五〇円及び内金五七万二三五〇円に対する昭和四六年七月二〇日から、内金二万円に対する同年三月一八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。被告は原告大正海上火災保険株式会社に対し金一二五万九五九三円及び内金四八万円に対する昭和四六年三月一八日から、内金六三万二一六九円に対する同年七月二〇日から、内金一四万七四二四円に対する同年九月二四日から、各支払済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一  原告野井の従業員坂野均は、同原告所有の大型貨物自動車を運転中、昭和四六年一月二六日午前四時三〇分頃福井市八重巻東町九ノ一〇附近の国道八号線上において、対向して来る緒方武司運転の大型トレーラー(以下単に緒方車という)、被告従業員稲川運吉運転の被告所有の大型貨物自動車(以下単に被告車という)、北爪松次運転の普通貨物自動車(以下単に北爪車という)に順次接触し、道路左側のガレージに衝突して停止した。

二  原告車は、対向車線においてその右側面後部を、一番前を走行していた緒方車の右側面前部に接触し、次いで僅かに自車線に入つたところでその右前部を、北爪車を追越して対向車線に復帰中の被告車の右後部に接触し、さらに原告車は対向車線においてその前部を、北爪車の右側面前部に接触した後、車道右側のガードレールを毀わし、右側歩道添いにある城戸内寛所有のガレージに前部を突込んで停止した。

三  右事故は稲川運吉が、道路の曲り角附近でしかも反対方向からの交通の安全を確めないで、無理な追越しをした過失によるものである。これに対向して大型貨物自動車を運転していた根本進は、無理な追越しを始めた被告車との衝突を避けるため、急停車の措置をとらざるをえなくなり、これに約五〇メートルの車間距離を保つて時速五〇キロメートル位で追随していた原告車もまた、追突を避けるため急停車の措置をとらざるをえなかつたが、原告車はこれによりスリツプして横向となり後部が対向車線に入り緒方車と接触し、坂野均は急ぎハンドルを操作して直進したところ、追越終了直前の被告車と接触し、ハンドル操作ができなくなつて北爪車に接触し、さらにガレージに突込んで停止した。

四  (イ)被告は運送業を営む会社であり、稲川運吉はその従業員であつて、事故当時被告の業務のため被告所有の大型貨物自動車を運転していたものであるから、(ロ)民法第七一五条により被告は本件事故による損害を賠償する義務がある。

五  右事故により次の損害が発生した。

(1)  原告車は右事故により大破し、修理のため金一二〇万四五一九円を要した。

(2)  緒方車は振津運送株式会社の所有であるが、同社は右事故により車両損傷の修理のため(本社所在地である大阪市への引揚料を含む)金三九万五〇〇〇円を要した外、修理完了まで一四日間を費し、休車損害金一〇万五〇〇〇円を生じ、原告野井に右損害の賠償を求めた。

(3)  城戸内寛は前記ガレージの修復に金一四万七四二四円を要し、原告野井に右損害の賠償を請求した。

六  原告大正海上火災保険株式会社(以下単に原告大正海上という)は、原告野井との車両損害保険契約及び対物損害保険契約に基づき、

(1)  前項(1)の損害につき、昭和四六年六月七日原告に対し金六三万二一六九円を支払い、

(2)  前項(2)の損害につき、同年三月一七日振津運送株式会社に対し金四八万円を支払い、

(3)  前項(3)の損害につき、同年九月二三日城戸内寛に対し金一四万七四二四円を支払つた。

七  原告野井は前項(1)につき金五七万二三五〇円の損害となり、同項(3)につき昭和四六年三月一七日内金二万円を振津運送株式会社に支払つたから、これについて被告に求償を求めることができるので、以上合計金五九万二三五〇円及び内金二万円に対する昭和四六年三月一八日から、内金五七万二三五〇円に対する同年七月二〇日から各支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告大正海上は商法第六六二条により前項の支払額合計金一二五万九五九三円の限度で原告野井の被告に対する損害賠償請求権及び求償請求権を取得したので、右金員及び内金四八万円に対する同年三月一八日から、内金六三万二一六九円に対する同年七月二〇日から、内金一四万七四二四円に対する同年九月二四日から各支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べだ。〔証拠関係略〕

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁の要旨として、請求原因第一項の事実を認める。

同第二項の事実中被告車との接触位置を争う。被告車は追越しを完了し、自車線に復帰後原告車と接触した。

同第三項の事実を否認する。本件事故は、坂野均が相当の高速度でしかも十分な車間距離を保たないで運転し、ハンドル及びブレーキ操作を誤つたため、雪どけ水で濡れていた路面をスリツプして操縦不能に陥り発生したものであり、被告車の追越しとは関係がなく、また被告車には追越し場所及び方法について何ら違法の点はない。

同第四項(イ)の事実を認める。

同第五項の事実を争う。同項(1)については、原告車は構造上エンジンの損傷はなかつたので、エンジン関係等の修理費金二四万円一四五二円(甲二号証)は本件事故による損害ではなく、また原告車牽引費用金一三万円は不当に高い。

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

請求原因第一項及び第四項(イ)の事実は当事者間に争いがなく、同第二項の事実は、被告車との接触位置の点を除き、被告の明らかに争わないところである。

同第三項の事実について判断する。〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

坂野均は、夜明前の小雪のちらつく中を、国道八号線を大型貨物自動車(車幅二・四九メートル、車長一〇・五五メートル、積荷なし)を運転して、先行する根本進運転の大型貨物自動車(車幅約二・四六メートル、車長約一〇・五六メートル)との車間距離を五〇メートル位に保つて時速約五〇キロメートルで追随し、前記事故現場附近(この附近の国道は、車道の幅員八メートル、両側に幅員三・五メートルの歩道あり、アスフアルト舗装、車道の両側端附近には数センチメートルの積雪あり)の左側にゆるく湾曲した場所にさしかかつた。

その際、先行車が制動したので、坂野均は、これに合わせて一旦制動し、時速約三〇キロメートルに減速して三〇メートル位進行した時(この間車間距離は変わらない)、先行車が北爪車(車幅二・四八メートル、車長一〇・八八メートル、みかんを満載)を追越してくる被告車(車幅二・四九メートル、車長九・九〇メートル、ベニヤ板を満載)と衝突しそうに見えたので、急ブレーキをかけたところ、スリツプしてハンドルをとられ、対向車線に入り緒方車(大型トレーラー、車幅二・四九メートル、車長一一・四〇メートル)に激突大破させ、次いで僅かに自車線に入つたところで被告車と接触したほか、前記のように順次衝突し、一方先行車は、被告車と衝突することなく同所を通過した。

右認定の事実によれば、本件事故は、たとえ先行車と対向車の衝突の危険があつたとしても、自車の速度、積荷状況、先行車との車間距離と滑り易い路面状況を考え合わせて適切なブレーキ操作をなし優に本件事故を避けえた筈であるところ、坂野均が不用意に急制動の措置をとつたため生じたものということができ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は前記各証拠に照らし合わせて採用できず、他に右認定を動かし稲川運吉の過失によるものと認めることのできる証拠はない。

よつて、原告等の本訴請求はすべて理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九三条第一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 土肥原光圀)

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